事務局便り

総選挙後の安倍政治について考える

――改めて問い直すその<内実>――

〈講師〉早野 透 氏(桜美林大学教授)

 昨年末の12月15日、連合会館2階大ホールで早野透氏の講演会が開かれた。総評OB会の速記録により、その内容を収録する。

司会 早野さん(写真)は朝日新聞政治記者として長年、日本の政治を見てこられた。田中角栄、小沢一郎らを取材してきたので、自民党にも精通している。われわれ総評、社会党に対しても時には暖かく、時には厳しい注文をいただいてきた。
 総選挙結果を受けていったい安倍政治とは何か、結果をどう見るのか、安倍政治はどこに行くのか、話をいただきたい。いったいわれわれはこれからどうするのか、ご意見をいただきたい。

 総選挙結果をどう見るか

早野 桜美林大学で偽・先生をしている。
 この話をいただいたのは10月ころ。選挙などつゆ思わなかった。
 11月9日に読売新聞が消費税先延ばしして解散、という一面記事が載って、昨日は12月14日、たった一ヶ月の間にこれだけの騒ぎが起きた。もともと、もう少し長期的展望で安倍政権の行方を話そう思っていたが、昨日の今日なので、じっくりした話にはなりそうもない。従って、今回選挙についての感想のようなものを話すことになろう。

 スト権ストから40年だそうだ。当時、三木さんが総理大臣で、私は官邸をうろうろしていた。昔の官邸は風情があって、汚れた赤じゅうたんがあった。6日も7日もストをやったので、僕ら汗臭い新聞記者がごろごろ寝たりしていた。懐かしい。ああいうときもあったのに、今はどうなっちゃったのだろう。今度の選挙結果を振り返るにつけ、思ったりする。

 選挙について感じることを話したい。
 私は東京1区に住んでいる。海江田さんのところで、自民党の山田美樹さんに負けた。比例で復活もなく落選、党首も変わらなければならないので、なかなか容易じゃないと思っている。
 海江田さんはそろそろ限界かと、選挙中から、いずれお引取りいただくと細野など次を狙う人たちがうごめいていたらしい。それでも海江田はいい人だから、それなりに務めていたから続投かと思っていたが、落ちてしまえばこういう状況だ。谷垣幹事長もどこかで、海江田は良い人だが、何の仕事をしているのか迷いがあり、どちらの方向に行こうというのがわからない。それが今回の結果で、民主党が勝手にこけたのではないかと、昨日電話したら、言っていた。

 選挙の最終日、記者の習い性で家でじっとしていられず、見に行った。安倍さんが秋葉原の電気街で最後の演説をしていた。日の丸がいっぱい詰め掛けていた。候補者の山田美樹さんは40歳女性。家族、国家、ふるさと、などと保守のオーソドックな人だった。今回民主党は、政権交代を目指さないと言っている、そういう野党に政権を、議席を譲り渡すわけには行かないと、こういうことを言っている。ワーッと盛り上がる。

 今度の選挙はそういうことなのか。安倍さんがなぜ今、解散に出たのか。民主党が油断しているところに奇襲、空襲した。

 次に麻生さんが出てきて、「デフレからインフレにする、皆が2%の消費税を上げてもよいと思うぐらいまで景気を回復して、消費税を上げる。」そのクギをさしたかったのだろう。それで安倍登場、それなりに盛り上げる。今の政界で良くも悪くもキャラが立っているのは安倍さん一人の気がする。30分の最初から最後までアベノミクスの話だった。民主党政権では雇用が3万人減り、自分の時には100万人増えたと言っている。

 高卒・大卒の就職内定率が上がった。これは私も関心あるところで、今大学生の就活を激励したりしているが・・・・。賃金も上がった。連合調査では2%上がった。時給は1050円になったと数字を並び立てた。これはまるでメーデー連合会長の挨拶のようだった。

 続いて、民主党の3年3ヶ月がなければ、というフレーズがなければ総評議長のメーデー挨拶のように聞こえた。
 「実感できない人もいるだろう、自分もそれは知っている。したがって消費税を先延ばしし、景気をとめず、円安が大変だとか話はあるが、中小企業が原材料が高くなって困っていれば政府系の融資、金融機関の融資をする。東芝、東レ、トヨタが海外工場を閉めてどんどん国内生産をするようになった」とか、「観光客も1300万人に増えた」とか。「観光客は日本の観光客より10万ぐらい余分に使うのだ」とか。
 私たちのイメージする安倍さんは憲法改正、集団的自衛権、秘密保護法だと思っていると、それを徹底的に覆い隠し、そうでない安倍を売り出して、勝負をかけた。

 最後の3分間で安全保障もある、日米同盟の絆は深めていく、日本人の命、領土領海を守れと安倍らしいことを言って、締めくくった。

 2年前の選挙でも、安倍さんの秋葉原の演説で、最後に、政権を取り戻す、憲法改正を目指すと、ちゃんと言った。今回はそれも言わなかった。それでも開票が終わった記者会見で言っていたが。
 今度の選挙は逆風も追い風もなかったと谷垣。谷垣は学生時代からの友達だから、様子を聞いたりしている。小泉進次郎に言わせると、熱狂のない圧勝だったと。

 そう燃えたわけではないといえば、確かに、安倍演説も聞いている人は静かに聞いている。唯一盛り上がるのは民主党の悪口のときだけ。民主党は間違っていたとか、どうしようもなかったとかいうと、ワーッと盛り上がる。谷垣君にも聞いてみると、全国を回っても盛り上がらないが、民主党がダメだというと反応する。

 民主党もそれなりにやったと僕らは思うのだが、あの3年3ヶ月の痛手、深手.党内分裂、消費税も分裂、原発の不幸な事故などなどで、今回の選挙は民主党?冗談じゃないとの空気が、根っこにあった。
 民主が政権交代を目指して候補者を立てることができない、もちろん維新との候補者調整などいろいろあるが、要はこういうところが今回の基本、ベースになっていたのかなと。民主党が勝手にこけた、ここをチャンスに選挙にチャレンジしたのは安倍が鮮やかだった。それに対応するような状況がまったくなかった。

 年末選挙に負けた翌日から再起を期して、街頭演説からはじめなければならなかったのに、それがしばらく謹慎とか言って、幹部連中が閉じ篭もった時期もあった。これではダメだったと思う。

 菅直人も調子悪いというので覗いてみたが、武蔵小金井駅前演説では、寒いところで最初は5人ぐらいしか聞いていなかった。でもあの人まじめだからパネルを持ち出し、民主党の3年3ヶ月にこんないいことがあったと一覧表を持ち出し、有効求人倍率が上がった、失業率が減った、自殺者の数など3万何がしから2万とか減ったと。こんなにちゃんと、政権時代に良くなったという。しかし自殺者の減ったのは良いが、だからといってもう一度やってもらおうという気にならない、そういう話では。

 菅さんも、民主党もいつもまとまらなくて、未熟で、と時々言葉にはさむので、ますます気がめいる。だから菅さんに、もっと景気の良い話をしろと苦情を言って帰ってきた。広島で亀井静が、俺たちは悪代官への百姓一揆だと言ったが、ああいう元気がなければ勝てるわけがない、というのが今回の、民主党の選挙だった。
 しかしそれでも少しは、議席が増えたのが、良かったのではあるが。そうしたベースが、安倍政権がやることに、対抗していかなければならないと実感した。

なぜ この時期に総選挙

 そもそもなぜこの時期に選挙をしたのか。安倍の政局組み立てにかかわってくる。

 谷垣幹事長にしたときから、解散総選挙は彼にやってもらおうとしていた。カネは大丈夫か、候補者はそろっているかとすぐ、確認した。大丈夫だ、いつでも選挙はやれる。それから1〜2ヵ月後に安倍の呼び出しに、早ければ早いほど良いと言ったはずだ。

 今はまだ支持率が高いが急激に下がってきている。来年になると集団自衛権を決定したがゆえの法律改正をしなければならない。そもそも日米防衛ガイドラインを変えなければならない。これまでは周辺事態に、アメリカの戦争に対して日本は後方支援する、などというところでお茶を濁していたが、集団的自衛権を認めるとなると、地球の裏側まで防衛に行くということだ。周辺事態の言葉を削って、地球の裏側まで、そこまで書かないかもしれないが、という言葉に置き換えなければならない。公明党は注文つけて、日本の安全にかかわる部分に止めると工夫はしているが、安倍さんの真意はぜんぜん違う。

 日本の安全にとどめる体裁をとっているが、明白な危険があり、米国が戦争したときには日本も行くというが、法律の書き方はそうではない。来年は原発再稼動をどんどんすることになれば、支持率が高まることは考えられない。経済も言うほど調子が良いわけではないし、消費税も上げなければならなくなるから、早ければ早いほど良いとの戦略を立てた。

 読売新聞、88歳ナベツネは依然として元気で、彼も安倍には早ければ早いほど良いと言っていた。読売新聞は自民党の機関紙と言っても怒らないのではないか。集団的自衛権、秘密保護、辺野古への基地移転、原発再稼動は賛成、憲法改正推進だ。

 読売新聞900万部。朝日新聞が苦労していて心配だが、今回の自民党の圧勝、といってもちょっと減ったのであるが、これだけ勝ったのは民主党のドジと、朝日新聞が少し力を失ったことが影響があるだろう。一つの社会のムードの中に、こうした権力のチェックを看板に力んでいる朝日新聞がへこむと、自民党の機関紙のほうが強くなり、安倍も、わが機関紙のボスが早く選挙しろといえば。

 また、ナベツネさんは具体的な工作をする人で、それは彼の回顧録を見れば鳩山一郎、大野伴睦の時代からだからいろいろ政治介入している。僕は谷垣君とナベツネさんの「早ければ早いほど良い」と、この二つが結びつけば、安倍はやれる。

 安倍さんにして見れば近しい、どちらかというとリベラルな、昔の三木さんや大平さんとはちょっと違うが、ちょっと近しい谷垣君が系譜の中にいる。自民党の機関紙が賛成してくれれば、勝負するのは万全を期すことになる。自分の地位を脅かしていた石破など、地方創生など何の実体もないところに押し込んで、最近はぱっとしない。
 と考えると、これからも安倍さんの方針が、今度の選挙にも現れている感じがする。

土井さんは立ちはだかった――中曽根内閣と安倍内閣

 安倍は、今回の不意打ち解散は1986年、中曽根の死んだふり解散に倣ったというわけだ。このときもナベツネが、選挙制度を変え定数是正して、周知期間とかの面倒な手続きがあって、当時の私は自民党記者クラブ朝日のキャップをやっていた。これはもう中曽根さんは選挙はできない、引っ込まざるを得ないと読んでいたら、様子がおかしい。抜け道、たった一日の余白があるとかで、解散総選挙ができるということがあった。これもナベツネが中曽根に提言していたらしい。

 参議院とのダブル選挙になり、自民は304議席。不意打ちを食らった社会党(当時は石橋委員長)が敗北した。今回はその再来。

 選挙は、社会党などは中曽根に裏を掻かれたとかひどい、ずるいと、演説が暗い。では俺たちは何をする、というのがない、そんなこと考える余裕もなく選挙になっていた。

 それで石橋さんが辞め、土井さんが出てきた。これが社会党転換の、まだまだ力があった。女性党首、メディアも軽薄に騒ぐわ、人気が出る。彼女はりりしい演説をしていた。中曽根さんに対する代表質問は、今読み返してもすごい。中曽根さん、あなたは恐ろしい人です。当時売上税をもくろんでいたが、選挙のときには「私の顔がうそをつくように見えるか」としらばっくれたりしていた。

 防衛費GNP1%枠突破もあった。中曽根は強引にやり、国家秘密法の導入や、レーガン大統領と日米運命共同体等々を売り出していた。三点セット、増税、軍拡、秘密国家。これが強権国家の三要素。税金を取り立て、軍事に使う。その政権を守るために秘密保護法を作る。今も同じだ。

 消費税はカモフラージュのために先延ばししたが、これは民主党も加担しているからどうしようもない。もう一つは集団的自衛権、特定秘密保護法。この三点セットが、安倍が中曽根死んだふり解散を見習ったのは、別段、解散に持ち込んで自分たちが勝つ、ゲームとしてのタクティック、戦術ではなく、もっと本質的なところで中曽根政治に見習うとしているのではないか。

 というところで今度の選挙を見つめなおすと、アベノミクスの段階で野党が論点を誘導されたこと自体が、野党の失敗だった。

 あの時は土井さんが立ちはだかって、売上税は頓挫した。
 GNP1%は飛び出すこともできず、1%枠内にとどまったこともあった。国家秘密法もおどろおどろしくやることはできなかった。土井さんの存在は大きかった。

 12日、最後のしのぶ会があった。土井さんの当時の肉声を聞くと、張りがある、きれいだけど、怖い。

 1986年登場し、89年竹下消費税導入で、社会党が参議院で圧勝、与野党逆転。参議院で土井が内閣総理大臣に指名された。そういう人が今の民主党にいるのか。課題だ。

 岡田さんぐらいが頑固でしっかりしているか。細野はやりたそうだが、まだ軽い。ふわふわしたところがある。それなりにどっしりしていないと、この状況で民主党を立て直し、少々議席が増えたとしても、これからを考えるとき、そのところが心配だ。海江田の後を決めなければならないし、重要なポイントだ。

 こうして安倍さんが再スタートすることになった。アベノミクスは、今はこれしかないという。ともかくそれで国民の意識をそこに集めて、この状況を突破する、それが「これしかない」という意味である。その先には、いずれ憲法改正、国家体制の変革、それにしか、彼の情熱、政治家の目標使命はないといえる。そのほかはそのための状況作りだった。

 安倍さんには戦前イデオロギーが残っている。靖国参拝に行ったのはそのことであろう。岸の政治の再来、再構築意識もあるだろう。これはかねて指摘されていることだが、これが心配だ。

 その点で、次世代の党が壊滅したのは良かった。10数議席が平沼と園田の2議席に減り、比例の票と議席は全国で一議席も取れなかった、比例復活もなかった。東京19区の山田宏、彼の言っていることは気持ち悪い。テレビで質問するところがあるが、従軍慰安婦について、河野洋平の談話を作るときに補佐役をした副長官、役人のトップである石原信夫を国会に引き出して質問していた人だ。

 慰安婦との事情聴取もしたその人を呼び出して山田宏は、石原さん、あなたはモデルの女性たちの話を確認しましたかと質問した。もう80過ぎのおばあちゃんたちの話は記憶間違いも食い違いもあるだろうし、それを確かめたのかと質問するのだ。石原さんは、「それはしていません。」と答えた。

 そら見ろ、何も確かめないで河野談話を作った。したがって慰安婦強制問題は空騒ぎだと言った。石原さんはいたるところで、私は彼女たちの話は真実だと思っている、そう実感せざるを得ないと、きちんと語っている。しかし確かめたか否かのところだけ取り出せば、確かめなかったとなる。そういうトリッキーなところで攻撃する。

 次世代の党は完全なる戦前イデオロギーだ。平沼党首は自主憲法制定論者で、これは安倍さんとは違う。今の憲法は不当だから一度全部廃止し、大日本帝国憲法に戻し、新しく作るべきだと。憲法学上そういうプロセスを踏むべきだ、国際法上そうなっていると主張する。つまり占領軍は、占領した国の憲法を変えたり変えさせたりすることは命じられない、という(ことを言う先生の)説を信じている人なのだ。安倍は9条を変えようというが、自民党の改憲案は一応全条にわたって作ってあるが、それとは違う。できっこないことはわかっている。そういうのとは違う、大日本帝国憲法のイデオロギーを引き継いでいるのが「次世代の党」だった。

 次世代がつぶれたのは今回の選挙で唯一、気分がいい。あとは沖縄――。

 これがどういう影響を安倍に与えるのか。次世代のような極端な右イデオロギーは国民支持を得られるわけではないと少しはわかったのではないか。増本、田母上、西村信吾、中山など、右翼っぽい発言の人たちが全滅、一掃されたのだが、あそこまでやるのはヤバイと思うか、自分がやらなければと思うのか、安倍さんへの影響はどちらになるか。

 今度24日、総理指名、発足する新体制は党役職も大臣も留任だという。谷垣は、謙虚にと言う。こういうときに調子に乗ると失敗すると安倍に言っている。

 

 これから起きることは一種のおごり、たとえば公共事業を自分たちの所に引っ張ってこようとか、予算拡大の動きもあるだろう。心配なのは小さい権力闘争。財務省がやりすぎた、増税路線で野田毅の消費税をちゃんとやれという「大儀」を苛めるとか。安倍の側近にはけんか早いのがいっぱいいる。安倍より小ざかしいのが出てくると、ごちゃごちゃする。

 その一番が、筆頭副幹事長の萩生田光一だ。テレビ報道に公平にせよというお達しを出した。かつての細川のとき椿報道局長が、この政権は自分たちが作ったなどとやって、産経新聞に報道されて国会に呼ばれてクビになった。

 谷垣にお前アレはひどい、弾圧はけしからんというと、そうなんだよ、安倍の周りには喧嘩っ速いのがいてすぐやる。萩生田は安倍が谷垣に送り込んだ、お目付け役なのだと言う。自民党の運営に安倍官邸がどのように配置しているかは、内部の闘争やら、時々そういうのが出てくるかもしれない。

 内部の闘争、確執を交えながら進んでいる。安倍の暴走などというが、実態としてありうると思う。

 これから予算編成、来年国会で通して、アベノミクスで選挙を勝った以上、景気は問われる。政治はちょっと油断すれば、安倍の対処も効果を発揮しないかもしれない。

 かつて中曽根さんが衆参両院で対処しようとしたときに、土井さんのたった80〜90の社会党の議席で、売上税をつぶしたりした。公明党の協力が味方してくれた時代だが、やりようによってはそれなりに戦える。

 今回も民主も維新も社民も連携できるのか。共産は議席を伸ばしたので独自行動なのか、与野党関係は予測の付かないところである。
 憲法は白旗を掲げる必要は無い。ただ中軸の民主党がしっかり立ち直らなければ困る。自民党はなんと言ってもディシプリン(Discipline=鍛錬)のある政党だ。

 増税問題など予定通り上げるべきだと谷垣も麻生も主張していた。しかし安倍が解散といえば賛成し、一緒に組んで、自民党を勝たせるべくがんばる。

 民主党にはそれが無い。何か決定しようとすると必ず異論反論、決まったことにも異論反論、脱党。消費税のときの小沢決断など、小沢がいけない。党を割るのはよほどのことで、早々割ったのでは政党は成り立たないことに、いま小沢さんが気づいているのか、盛んに、政界再編、党が一緒になるべきだという。

 実際、動きはあった。
 この選挙の前に、どうやら安倍自民が強そうだとなって、何も用意をしていない野党が、蹴散らされてしまうというので民主、維新、ほかも一緒にやろうというのが、民主若手から出てきたという。玉木雄一郎君。香川で当選してきた。もともと財務省職員で、選挙にかかわろうと。その彼が話を持ち出し、亀井静のところに持っていった。亀井は小沢に伝えて、民主若手50人と新党を造ろうという動きがあった。
 TBSの岸井キャスターが、そんな動きがあったらしいといっていた。

 しかしあまりに時間が切迫していてできなかった。亀井は野党糾合して、アベノミクスに対抗する里山資本主義で行こうと。地べた、地域社会に根ざした資本主義を再構築しようと。こうした経済構想でアベノミクスに対抗する野党を糾合しようとした。結局それはダメでしたが、これからすべきはそれかもしれない。

 そのきっかけが沖縄かもしれない。辺野古反対、自民党の半分と、民主党もへっぴり腰ながら加わって、社民、共産が手を組み、翁長知事を生み出した。4つの選挙区で全部勝った。共産党の赤嶺さんを翁長さんが応援するという場面を作り出した。共産党を元自民党が支援した。それが勝つ。沖縄的事情はあるだろう。長年基地を押し付けられてきた思い、沖縄戦の記憶も生きている。それを目指せるのか否か、それが野党の肝心なところだ。維新の江田憲司は、野党がちょっとしたことですみわけする時代ではない、束になって安倍に向かわないと勝てないと言っている。

 民主と維新、政策にどれだけ違いがあるのか。憲法は心配だがそんなにないのかもしれない。何とか工夫しなければならない。

 したがって維新、共産がこれからどう動くのか、民主党が中軸になり、政局を采配できるリーダーになってもらいたいが、人間および組織が、十分な期待がしにくい状況にある。

 かつて総評が政治を下支えしていた。組合主導などと批判して、いけないようになってしまったが、いまの時代はまた違うのではないか。時代が変わると、それまでのダメが、そうではないと変化しても良いと思う。50年経っている。変化してよい。それを受け入れる国民的土壌ができている。
 共産党がこれだけ伸びたのは、反共、違和感が変わってきているのかもしれない。それが沖縄で共産候補者を元自民党幹事長が押す時代になっている。

 しかし沖縄は落選した人も比例で、立候補は全員、維新の下地までも当選している。
 沖縄で立候補した人は全員当選している。つまり比例復活は接戦していると、惜敗率が高くなり、当選する。九州全体の自民党の割り当てが、半分を沖縄比例区で取ってしまった。沖縄は接戦を演じて、全員当選させてしまう、やるもんだ。
 それは翁長知事には大変なことだろう。辺野古に賛成と反対の国会議員が半分ずついる、どう行動したらよいのか。

 安倍は辺野古を推進すると言っている。複雑な様相になっている。知事の立場がアレだから、安倍も苦労するだろうが、自民党も全員当選しているからほくそ笑んでいるかもしれない。
 参考にすべきは、ああした共闘のあり方、これまでの既成概念で食い違っていたところは、乗り越えるということかもしれない。

 世田谷あたりに住む友人は、あそこは自民と維新と共産が小選挙区で立った。リベラルな住民は維新に入れなくてはいけないのか、困ったと思いながら、しかし投票した人もいる。野党の課題としては一つの大きなブロックを造らなければならないと思う。

 自民・公明3分の2、毎日新聞などは自民が減った、朝日は全体の支持3分の2、大勝と書く。自分は、自民党は伸びていないとの感想で、毎日の見出しのほうがぴったり来る。

 安倍さんはこれで、来年2015年9月には自民党の総裁選挙、ここは選挙に勝ってしまったので、それまでよほどの失敗がなければ無投票当選でも不思議ではない。

 2016年7月参議院選挙。2017年4月、消費税は必ず上げなければならない。2018年9月総裁選。安倍にとっては自民党総裁任期と衆議院任期と併せてあと4年、持ち時間がある。アベノミクスの成功と消費税増税は2017年4月、そこから考えてもあと一年半ある。

 彼が考えているのは、アベノミクスは一定の成功を収めなければならない。消費税を上げる。しかし宿願の憲法改正に手を付けたい。昨日あたり、そうはいってもなかなか、国民投票もあり、簡単ではないと言いつつ、国民の理解をそろそろ深めていかなければいけないと言っている。

 これは乱暴にはできないが、4年の持ち時間でかなり良いところまでいける。再来年の参議院の選挙で、ここで憲法改正を言わなければならない。つまり2016年7月、参議院選挙のときに憲法改正を、具体的に討議する、国民投票するというところまで、状況を作って、そこで勝負することではないか。場合によってまた、衆参ダブル選挙をする。もともとそういう気もあったのですからね。憲法改正のあとでしてもいいでしょう、ということになるのではないでしょう。

 それからあと1・5年ある、その間に憲法改正の具体的手続きと国民投票をするのが、彼の思い描いている、安倍政権の最終的課題、夢というべきだな。

 秋葉原の演説でも、国民の夢を実現すると言っていた。彼の夢と僕らの夢はたぶん違うだろう。
 
 中・韓関係も厳しい状況が続くだろう。一方で米国との切れ目の無い連携を続けるだろう、これも全て憲法改正につながる話だ。日米の切れ目の無い連携、集団的自衛権の実行となると、9条解釈はぎりぎりのところに来る。そこまで成功すれば一定の説得力を持って、憲法改正を提案できるだろうと、踏んでいるのだろう。

 それでは困るとわが国民も、いざとなると、そこまでは首をかしげる、のがこれまでだった。中曽根、岸、安倍がフライングしようとするとブレーキがかかるのが、これまでの国民意識のありようだった。予想できない変化があるかもしれない。

 靖国参拝は、ナベツネさんは反対している。自民党機関誌はあらゆることは安倍さんを支えている、ナベツネさんの口から、全部支えると聞いたことがあるのだが、靖国だけはダメだといっている。一言で言えば靖国参拝だけは新しい国家主義、ニューナショナリズムの構築から言えば、集団的自衛権、原発再稼動、辺野古や秘密法は、一応、これからの積極的平和主義の国家構想に一応、はめることはできるのだが、靖国はそうではないということではある。

 ナベツネさんという人は戦争末期、1945年に戦争に二等兵でとられて、新潟で勤労奉仕で肥タゴかなんか担いで、ぶん殴られて。そんな体験から、本当に戦争は嫌だという原体験で持っている。これがあるから、大日本帝国は困る、というのがある。これは戦後の保守は皆持っていた。

 田中角栄も二等兵で満州に行かされて、ノモンハン事件で先輩が次々に死んでいく。そんなところで女好きの彼にラブレターが来ると、それを読み上げられて殴られた経験ばかりだから、戦争はこりごり、軍隊は嫌だという経験があった。戦後の保守には戦争は嫌だというのがあった。一方には東条内閣商工大臣の岸もいたが、吉田茂も軍部に抵抗して、引っくくられた経験を持つ。そんなこともあり池田は経済優先、佐藤栄作も岸と違い、日本国憲法は日本人の血となり肉となった、などと言っている。

 佐藤の時代になると兄の岸と同じく、憲法改正して軍隊を作るのかと思ったら、逆に沖縄返還をした。戦後保守は護憲だった。そのところが、中曽根も憲法の象徴のような土井が前に立ちはだかって、突破できなかった。いま安倍になり、いよいよ憲法改正しようという事態に立ち至っているときに、果たして護憲勢力があるのか。心配だ。

 幅広い国民意識の中に「護憲」というような古臭い言葉では言わなくても、戦争は嫌だなという気持ちはある。大学生にそういう話を向けると学生は、兵隊にとられるのは絶対嫌だ、でも命令ならば行かざるを得ないかもという学生もいる。「不良」の方が嫌だという。これから憲法改正したら君たち、戦争に行くかも知れないと脅かすのだが、国民意識はわからない。そう、やれやれというばかりではないかもしれない。

 だから安倍さんの目論見が空振りになることはいいと思うのだが、それも彼はわかっているのだろう。国民投票は簡単ではないこともわかっているから、谷垣幹事長が謙虚に、着実にと言っているのを受け入れて、自分も謙虚に、着実にと言っているわけだ。

菅原文太の演説

 今度の選挙で最高の演説は、沖縄知事選での菅原文太だろう。翁長の応援演説をしていた。ゆっくり、間を取りながら、さわりでは、政治とは国民にひもじい思いをさせたらいけない、飢えさせてはいけない。もう一つは戦争をしないこと。この二つだと語りかけた。仁義なき戦いのやくざのせりふ、「まだ玉は一発残っているゼよ。」同じ広島やくざの亀井静の、「これは悪代官への一揆だ」と通じるものがある。

 菅原文太は翁長誕生の応援演説をして死んでいった。これが今年の記憶すべき一つの大切な、政治的場面だったと思う。

 今度の選挙は安倍政権の勝利というより、安倍勢力の確認だった。安倍はここでもう一度信任を得た、といえばそうだが、大して増えも減りもしない。それが、これから左右どちらに触れるかわからない要素がいっぱいある。政治は常にそうだが、一方でしかし、菅原文太の一言を心にとどめて、ネット上でたくさん流れていく、それを心に留める若者がいる。このあたりに期待をかけて、安倍さんの妄想が実現しないことを願いたい。

 戦後民主主義の最後の世代に属する私など、戦後民主主義が、国民主権になり、平和主義を尊び、この時代は本当に貴重な時代だったと思う。あの敗戦の、300万人の日本人が死んだ現実の中から、平和憲法を生み出した、これは20世紀のパラドックスだ。それを日本という、私たちの生まれた国の歴史として、来年は戦後70年、そうそう軽々に、安倍さんの日本改造計画に乗るわけには行かない。

 必ずしもこれからの展望を、絵を描くように申し上げられたわけではないが、これにてお務めを終わらせていただきたい。ありがとうございました。(拍手)


会場からの質問・意見

Kさん これからの安倍は何を考えるか。新しい内容のファシズム形成に焦点が向けられているのではないか、との疑いを持っている。それは特定秘密法など所信表明では言わず、じわじわコソコソ、最後は閣議決定してしまう。このやり方が、麻生太郎が言った、ナチス・ワイマール憲法のようにいつの間にか骨抜きにするやり方だ。

 12月2日、告示の日、側近に安倍がこれで4年、自分の政権が続くことになったと漏らしている。本音は2年でポシャるのではなく、4年間継続することに政治的意図がある。

 一つの問題提起だが、平和憲法より重要な、人権問題がある。自民党の改憲基本構想では、「個人」を消して、「人として扱う」、とある。今までの憲法は少なくとも国民主権ははっきりしていた。それをじわじわ消していくことにより、膨大な数の無関心層が選挙に参加しない、こういう機会を利用して、早めに人権を拘束する法律を作っていくのではないか。障害者保護、生活保護、生存権、更には教育権、表現の自由、あるいはさまざまな、いまは保障されている人権が、次々に拘束されていくだろう。それは安倍自身が、あまりにも自由すぎることに対する不自由を感じているが故に、自由すぎることを押さえ込んでいこう。まるで大正デモクラシーがやがて、軍国主義によって押さえ込まれていったような流れが、必ずできるのではないか。

 1980年に反核運動があり、国連反核委員会に参加した。そのときシカゴにある全米市民自由連合との意見交換で、われわれが日本国憲法にかかわりを持ったのは人権問題への関心だった。サイパンと沖縄を攻めたとき、わが子を抱いてがけの上から雨のように、自殺をする国民で、日本人には人権の意識が誰もない。

 先ほど300万人の人権が軍部によって踏みにじられたとあったが、まさに300万人の人権が、軍部によって踏みにじられた。このことは歴史的事実としてある。その意味では今の憲法のなかにわれわれ、つまり全米市民自由連合は、われわれが憲法草案をマッカーサーから託されたのは、人権問題のところだけなのだ。そこには人類の理想であるものを意識したつもりだ。それを守るのはお前たちの、本当の平和運動ではないのか。大体君たちは、歴史的に人権運動などやったことは無いだろう。常に軽く考えた。そこのところを守ってほしい、と最後は叱られるような調子だった。

 私は80超えてもいまだに頭の中にこびりついている。いわゆる、アンチファシズムに対する、具体的な取り組みとして、総評が立派に生きていれば、だが、OBだから連合にも言える立場に無い。じっと眺めているだけなのが大変ふがいない人生を送っている、とこんなところです。

 早野 心に沁みながら伺った。
 9条の平和の価値観と人権、これが戦前帝国憲法と明らかに違う、人類の理想を書き込んだとの経過もあったそうだし、そのとおりだと思っている。

 自民党憲法草案には人権に必ず、公の秩序による制約というのがかぶせている。個人というのが「人」になり、もう一つの明確な方向性、人権を国家の枠内に収めることが、安倍時代の自民党だと思うと、ひどい方向に変質したものだと思う。

 具体的には、ヘイトスピーチに激しく現れている。目の前の在日の人に死ねという、裁判では高額の賠償金を認めた。ヘイトスピーチをしている団体も、文句言いつつ罰金を払わざるを得ない。NHKの経営委員、会長などに籾井、百田なんて人が入り込むのも、NHKを見ているわれわれとしては、何か影響が在る、因果関係があると思わざるを得ない。

 従軍慰安婦問題は強制であるか否かでなく、女性の人権問題だ。強制連行がなかったからなにもなかったかの言い方で、朝日新聞は攻撃されているが、朝日新聞にはそういう点で、吉田証言をうかうか信じたなど、失敗はあるが、あの時代に人権を侵された韓国の女性たちの思い、歴史に封じ込められた烈々たる怒りを松井やよりが書いた。そういう種類のことは書かないというのが、それまでの「男の新聞」だったと思う。それを記事にして変えていったのだから、もう朝日はあまりにお詫びする必要は無い。朝日はもう、開き直って、がんばらないと。人権問題への根本的信頼、個々の問題でなく体制としての信頼がなくなると危惧している。

 310万人の戦没者の半分は餓死だという。ガダルカナルなどに食料を届けようとした人たちが、飯ごうは空っぽ、よれよれになって死んでいく。立てなくなった兵士はあと半月、寝たまま垂れ流しになる兵士はあと3日、瞬きしなくなると翌日、という感じで死んでいった。食料を届けた兵士たちも同じように死んでいく。戦争の記録を読むと、単に9条だけではなく人権問題としての戦争も、ひとつの視点としてもたなければならない。

 それを「新しいファシズム」と表現されたのは適格だと思う。現場の記者としては総括的な、全体を捉える理念はあまり考えないたちだが、いままさに、そういうことかと同感した次第だ。

Yさん 今後徴兵制度はあるだろうか。
 私は総評オルガナイザーをしていた。定年退職後、千葉県白井市議会議員、現在3期目。来年統一地方選が任期の期限だ。

 9月議会で市長に質問した。「広報しろいし」に自衛官募集相談員を委嘱したとの記事が、市長と相談員の写真入りであった。一体、地方分権一括法で、国からの委任事務が制限されたはずなのだが、防衛省からの募集事務はどの程度、自治体に依頼されているのか、法的にどうなっているのかと質問した。

 国から県を通じた、または直接自治体に対する委任事務はほとんど、制限されて地方分権が進んだが、防衛関係は一つも分権の範囲に入っていないという。

 私はこれを私の議会報告にも書いた。このまま行くと、手をあげて自衛隊に行くという青年が少なくなれば、隊員を確保できなくなる。そのとき政府は何をするのか、疑問がある。今後どうなるのか、予測で結構なので質問したい。

 早野 根本的な問題を伺わせていただいた。ほかの事は一括で市の自主性に任されているのに、防衛関係は上から来たものはやらなければならないのですね。

 昔の統帥権のようなものですね。それが確立されていくと防衛業務に一般市民は文句をいえなくなる。そこから防衛などが、国民の義務みたいになっていく。が、これは憲法改正しないとなかなかできないと思う。改正すると徴兵もあるかもしれない。そうは言っても戦前と違い、一方に若い人はスマホで自由にやっている。世界中で徴兵制度のような形で、古典的なことをしている国家もそうは無い。となると心配はあるが、さすがに安倍さんが徴兵制度のところまではやれないと思う。

 まあいずれにしろ、市民というあり方がどこまで抵抗力があるか。人権の問題も、政党より市民が防波堤になるだろう。徴兵制はぎりぎりの人権侵害につながっていく。何とか防ぎましょう。
 大変鋭い指摘で、勉強になりました。

 Tさん 解散する権利は憲法違反だとの説が、選挙に入ったときに小沢さんか誰かが言った。「世界」の今月号に、関係する説明が出ていた。よくわからない(ので知りたい)。

 早野 解散が専権事項とは、憲法のどこにも書いていない。解散は憲法7条、天皇の国事行為の中にあるかもしれない。

 もう一つは69条。内閣不信任案が出たときに、総理大臣は解散することができる。この二つしかないので、「解散権」なるものが総理大臣にあるのかどうか、憲法に書いてない。

 これができたのはおそらく、吉田茂の「バカヤロウ」解散とか、もう一つあった。具体的な政治過程の中で総理が勝手に解散したものだから、憲法解釈が後でできたのではないかという気がする。私も疑問に思っている。

 本当はイギリスのように、勝手に解散してはいけないと。イギリスでは改めて決めたらしい。これも少し考えなければならない。不意打ち、いきなり解散させられる。ドイツでもそんな解散はしない。ヨーロッパの民主主義先進国はこういう乱暴な、政局的な解散はあまり聞かない。そこが一つ、問題点だ。今回の解散でその問題が意識されてきたのは確かだ。

 たぶんそれで「世界」の論文も学者も、論文で教えてもらっているのだろうと思う。これをしかしどういう風に、政治の中で現実化していくのか。与野党、永田町全体で「解散はめったにしてはいけない」という、ある種の高度な合意をしなければならない。

 すると、国会議員の政治的見識がもう一段高くならないと。今の政治家たちは。せいぜいパソコンのゲームのような調子で、隙を見て解散してこっちが勝つ、というような感覚だから、政治見識といまの政治家にはものすごく落差がある。安倍さんがまた次の不意打ち解散を狙う、とか何とかなるんじゃないかと思う。この問題も、改めて問題提起していかなければいけないことだと思った。
(文責は総評OB会)